若葉が目にしみる緑のキャンパス──。 鶴見大学・同短期大学部は今春、
東京大学名誉教授の木村清孝氏を新学長に迎え、新たなスタートを切りました。
今、国内の大学・短大は少子化の直撃を受けて、大変に厳しい時代に突入しています。
そうした中、本学の特色である仏教の教えに基づく人間教育を軸に、
「全学一丸となって、新たな魅力の創造を」と熱く語る木村学長に、
鶴見大学への思いや今後の抱負などを聞きました。

 
 

 

 
 

学長としての使命達成に全力

 
 

 

──学長就任から2カ月が過ぎました。今の心境はいかがですか。

木村 毎日が多忙で、大変な仕事を引き受けてしまった、というのが正直な気持ちです。 ただ同時に、学内の事情もだいぶ分かってきましたし、学長として私に課せられた使命を精いっぱい全うしようとの思いも強くなっています。 今回の学長就任は、降って湧いたような話で、初めは戸惑い、悩みました。しかし私自身、教育・研究者として、ずっと大学でお世話になっており、また本学と関係の深い曹洞宗の宗門人の一人でもあります。そのようなわけで、鶴見大学との深い御縁を感じ、学長をお引き受けすることにしました。
 学長に就任した以上は、本学をより魅力のある大学に変革していくため、先頭に立って頑張りたい。今はそう決意しています。

 

 
 

豊かな心育てる人間教育

 
 

 

──鶴見大学に対しては、これまでどのような印象をお持ちでしたか。

木村 本学は文学部と歯学部、それに短期大学部の3つで構成されています。全国に大学・短大は数多くありますが、文・歯の二学部と短大を組み合わせた、このような形態の大学は極めて珍しいのではないでしょうか。
 また、本学は曹洞宗の大本山の總持寺が設立した大学で、建学の理念が明確です。そして、禅の精神である「大覚円成、報恩行持」(人として生まれたことに感謝しつつ、一切のものに愛情をもって接し、社会のために尽くす人となる)の教えをベースに、豊かな心の育成に重点を置いた人間教育がしっかりしています。
 大学のキャンパスも、緑に囲まれた總持寺の境内にあります。電車で横浜まで10分、東京まで30分という都市部にありながら、自然豊かな閑静な環境の中で勉学に専念できる。学生にとっては申し分のない環境と言えましょう。
 私自身、このような大学に招かれたことを大変光栄に思います。

──ところで、大学・短大を取り巻く環境は年々厳しさを加えています。一向に止まらない少子化の影響で、大学進学年齢の人口が減り続け、大学間のサバイバル競争が激化しています。本学もその例外ではありません。
 そのような中で、学長に就任されたわけですが、これからの鶴見大学はどのようにあるべきだとお考えですか。新学長としての抱負を聞かせてください。

木村 少子化の波をもろに受け、大学は“冬の時代”に突入したと言われています。このような時代に、ただ漫然と手をこまねき、従来からの路線を踏襲しているだけでは、大学として生き残っていくことさえ困難になるでしょう。 そこで鶴見大学としては、まず大学の置かれている現状をしっかりと認識する必要があります。そのうえで学部・学科の枠を超えて、全学が一つの和合体として力を合わせ、新たな魅力の創造のために知恵を出し合い、行動に移していく。それが何よりも大切なことと考えます。
 そのための一つの方法として現在、学内に目安箱を設置する準備を進めています。名称は「学長ポスト」がいいかなと思案中ですが、学生であれ、教職員であれ、誰もが自由に自分の意見やアイデアを投函できる。こうして学内の生の声を吸い上げ、大学改革に生かしていきたいと願っています。

 

 
 

伝統や特色を生かし、
「オンリーワン教育」を推進

 
 

 

──鶴見大学がめざす“新たな魅力”とはどのようなものでしょうか。

木村 例えば、本学の伝統や特色を生かし、うちの大学でしかできない「オンリーワン教育」の推進です。
 その一つが、従来から力を入れてきた人間教育です。本学には禅宗の教えに基づく立派な建学の理念があり、それをバックボーンに豊かな心を育て、人格を磨く人間教育に取り組んできました。
 今の世の中を見ると、「お金がすべて」という風潮が強く、功利主義がはびこっています。また大不況の嵐の中で、失業や所得格差、凶悪犯罪などが増大し、社会全体が何となく殺伐としてきました。
 このような時代だからこそ、確固とした建学理念の下に、本学で進めている人間教育は、今後ますます重要になってくるはずですし、鶴見大学の大きな魅力の一つとして、さらに推進していく必要があると思っています。
 また本学には蔵書数70万冊を誇る、国内の大学では屈指の素晴らしい図書館があります。これを有効活用して、日頃から学生の学習や研究支援に役立てていく。こうしたことも、本学ならではのオンリーワン教育の一環と言ってよいのではないでしょうか。

 

 
 

全学共通、誰でも受講できる
魅力的な授業の創設を

 
 

 

──大学の魅力づくりという点で、ほかにはどのようなことが考えられますか。

木村 授業の面でも、各学部・学科がそれぞれ魅力づくりに力を入れています。
 例えば、歯学部では他の歯科大に比べ、臨床実習が大変に充実しています。同じキャンパス内に附属病院が立地する特性を生かし、病院側の全面協力によって、学生たちは多くの患者さんの治療を体験でき、在学中から貴重な経験を積んでいます。
 また、文学部には東日本の私大では唯一の文化財学科や「数学が苦手でもコンピュータを駆使できる」を謳い文句にしたドキュメンテーション学科があり、独自のオンリーワン教育を展開しています。 短期大学部でも、歯科衛生科を他の短大に先駆けて3年制に移行させるなど、時代をリードする先進的な取り組みにより、常に魅力づくりに努めています。
 鶴見大学は、クラブ活動やボランティア活動も大変に盛んです。とりわけ最近の野球部の活躍はめざましいものがあり、一般の学生たちにも元気を与えています。
 ほかにも大学の魅力づくりのために、現在、学内で様々な検討がなされています。
 例えば、その一つに全学共通の魅力あふれる授業の創設があります。この授業は大学や短大、学部・学科の枠を取り払い、鶴見大の学生なら誰でも自由に受講ができ、単位も取れるようにします。
 幸い、本学には個性豊かで、優秀な先生方がそろっています。従って、学生の興味を大いに引く魅惑的な共通授業の創設は、決して難しいことでではないでしょうし、なるべく早期に実現させたいと思っています。

 

 
 

情報化時代だからこそ大切な
「脚下照顧」の教え

 
 

 

──話は変わりますが、木村学長は東京教育大学(現、筑波大学)の文学部で倫理学を専攻し、さらに東大の大学院でインド哲学を学ばれたそうですね。
 学生時代はどのような学生生活を送られていたのでしょうか。

木村 私は函館の寺の長男として育ち、大学進学を機に上京しました。学生生活を送ったのは、ちょうど60年安保から70年安保にかけての時期で、“政治の季節”と言われ、学生たちはキャンパスの中でも外でも、政治をはじめ様々な社会問題をテーマに、熱く語り合っていました。
 私は大学入学と同時に、都内にある学生寮に入ったのですが、そこには出身も大学も専攻も異なる学生たちが多数入居していて、何かと言えば、みんなで集まり、議論し合ったものです。
 おかげで、専門外の本もたくさん読みましたし、何よりも仲間との議論を通して、自分の頭でしっかりと物事を考えること、それも筋道立てて論理的に考えることの大切さを学びました。
 それに比べると、今の学生は情報化・グローバル化の中で、おびただしい数量の情報に翻弄されて、あまり自分の目で見、頭で考える習慣が身についていないような気がしてなりません。
 大学生になった以上は、情報に追われ、流されるのではなく、まず自分の頭でよく考え、どれが本物の情報なのかを正しく識別できる能力をぜひ養って欲しい。禅宗では「脚下照顧」(自分の足元をしっかりと見詰めること)を強調しますが、とくに本学の学生にはこの教えを肝に銘じて欲しいと思います。
 また、最近の学生は自分に興味のあることだけに関心を示し、狭い世界に閉じこもりがちです。しかし、これではいけません。政治や経済をはじめ、もっと大きな社会や世界の動きにも関心を持ち、世の中を良くするために積極的にコミットしていく。学生ならば、そうした気概をぜひ持って欲しいものです。

──現在、ライフワークにされている研究はどのようなものですか。

木村 仏教、あるいは広い意味の東洋哲学の中で、私が専門的に研究してきたのは「華厳思想」です。これは『華厳経』という、大乗仏教の経典を柱にした思想体系で、粗っぽく言えば、どうすればお釈迦様の悟りの世界に近づけるかを究めようとするものです。学長としての仕事が忙しく、研究は一休みですが、いずれ再開したいと思っています。

──最後に、新学長として学生・教職員にメッセージを。

木村 学生の皆さんには、勉学やクラブ活動など本学でのキャンパスライフを謳歌し、自分の個性を磨いて、大きく豊かな人間として羽ばたけるようになって欲しい。また教職員の皆さんは、大学が直面している困難を直視し、その克服のために一致協力してほしいと切に望んでいます。

 
   

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